5月10日に行われた、第13回木南道孝記念陸上競技大会。
事前展望でも触れた通り、名古屋アジア大会代表選考レースとして行われた男子10000mは、トラックシーズンの本格的な幕開けを告げるにふさわしい、見応えのあるレースとなった。
優勝は、日本記録保持者の 鈴木芽吹選手(トヨタ自動車)。 タイムは 27分20秒11。
日本陸連が定める派遣設定記録 27分31秒27 を突破し、名古屋アジア大会代表内定を勝ち取った。2位には 亀田仁一路選手(旭化成)が27分40秒41、5位には学生で唯一出場した 藤田大智選手(中央大)が28分04秒61で入り、それぞれ強い存在感を示した。
鈴木芽吹、日本記録保持者の貫禄
鈴木芽吹選手の走りは、勝つべくして勝つ完璧なレース。まさに「貫禄」の一言に尽きる。
序盤の1000mは2分45秒、3000mは8分18秒。集団の中盤で力を温存し、無駄なエネルギー消費を抑える巧みなポジショニングを見せた。4000m過ぎに集団が縦に長くなり始めると、鈴木はスルスルと前方へ。やがてペースメーカーのマル・イマニエル選手(トヨタ紡織)の背後にピタリとつけ、余裕のある表情でラップを刻んだ。
その後も派遣設定記録を意識したイーブンペースで進み、5000m通過は13分46秒。この時点では、鈴木選手、亀田選手、藤田選手、西澤侑真選手(トヨタ紡織)らが先頭集団を形成していた。
そこから7000mを過ぎて、ペースメーカーの後ろにつくのは鈴木選手のみ。派遣設定記録を切れるかどうかにレースの焦点はシフトしていた。その中でも、圧巻だったのは8200m過ぎ、ペースメーカーが外れた後の切り替えだ。一呼吸ついた後にギアを一段上げ、ラスト1000mは2分39秒。
ゴールタイムは、27分20秒11。アジア大会の派遣標準記録を大きく上回り、代表内定を即座に手中に収めた。
鈴木選手は今季のテーマを「勝ち切ること」とし、木南記念についても「勝ってアジア大会代表を決めたい」と語っていた。その言葉通り、代表選考の重圧がかかる大一番で、日本記録保持者としての「勝ち切る」強さを見せつけた。
先日の落合選手に続き、所属先であるGgoat勢の勢いが止まらない。春先のこの時期、そして決して長距離に最適とは言えない気温下で、セカンドベストとしてこのタイムを叩き出したことは驚異的だ。
12月の日本選手権10000mなど、気温が下がり、記録を狙いやすい条件が整った時、鈴木が日本人初の26分台に挑む姿を期待したくなる。日本陸上界の悲願である「日本人初の26分台」がいよいよ現実のものとなるかもしれない。
亀田仁一路、関西大出身ランナーが殻を破る
2位に入ったのは旭化成の亀田仁一路選手、このレースで最も大きく評価を上げた選手の一人だ。
亀田選手は関西大学出身。大学時代から関西学生長距離界で無類の強さを誇っており、日本インカレ10000mでも日本人トップとなる4位に入るなど、関西から全国トップ層へ名乗りを上げてきたランナーだった。
旭化成入社後も着実に力をつけてきた。大会前の10000mの自己記録は、2024年12月の日体大長距離競技会で出した27分59秒27。今回の27分40秒41は、そこから一気に約19秒縮める大幅な更新となった。
躍進の兆しは、すでに今年のニューイヤー駅伝にもあった。
各チームの外国人選手が集う区間の4区(インターナショナル区間)を任され、日本人トップの塩尻和也選手(富士通)と僅か11秒差の区間13位と好走。この大舞台での経験が彼に確かな自信を植え付けたのだろう。
その後、米国で開催された「The TEN」へ挑戦、そのまま先週のゴールデンゲームズinのべおか(GGN)で快走した相澤晃選手らと共に、アルバカーキでの高地トレーニングを敢行。トップレベルの選手たちとの質の高い練習と、高地トレーニングが、彼の有酸素能力とスピード持久力を飛躍的に引き上げた。今回の上位陣にアルバカーキ合宿組が名を連ねたことは、この強化策の有効性を如実に証明している。
そして今回の木南記念。鈴木には離されたものの、派遣設定記録ペースの先頭集団で勝負し、最後まで大きく崩れず27分40秒台でまとめた。
「関西大学出身の実業団ランナー」から、「日本トップクラスの10000mで上位に入る選手」へ。
亀田にとって、このレースは全国区へのブレイクを示す一戦となった。
中大・藤田大智、実業団に臆さぬ果敢な挑戦と粘り
学生で唯一エントリーを果たした中央大学の藤田大智選手の走りも、会場を大いに沸かせた。
スタート直後から臆することなく先頭集団に食らいつき、5000m付近まで実業団のハイペースに真っ向勝負を挑んだ。
特筆すべきは、先頭集団から離れてからの「粘り」である。単独走に近い状態になるとペースが急落するのがセオリーだが、藤田は苦しい時間帯を最小限のペースダウンで耐え抜き、並み居る実業団選手に割って入る見事な5位入賞を果たした。
先週のGGNでも、中央大学勢の大幅な自己ベスト更新など目覚ましい活躍があった。岡田開成選手が5000mで 13分19秒44 をマークし、日本人学生歴代6位。栗村凌選手も 13分21秒99 で走り、U20日本記録を更新した。
もちろん、トラックで速くなることと、駅伝で勝つことの間には大きな差があることは、誰もが理解している。
それでも、今日の藤田選手の走りから見て取れるように、今年の中央大学は「速さ」だけでなく、実業団トップ層に挑む姿勢や、苦しい展開でも粘る力を見せ始めている。
トラックシーズンから秋の駅伝シーズンへ向けて、今年の中央大学からは目が離せない。
木南記念の10000mが見せてくれたもの
今回のレースは、鈴木芽吹選手がアジア大会代表内定を決めたレースだった。
ただ、それだけで終わらせるには惜しい。
鈴木選手は、日本記録保持者として代表選考を勝ち切った。 亀田選手は、27分40秒41で一気に日本トップ層へ食い込んだ。 藤田選手は、学生として実業団勢に食らいつき、中央大学の勢いをさらに印象づけた。
そして、Ggoatの勢い。 アルバカーキでの強化。 中大勢のトラックでの台頭。
いくつもの要素が、この25周には埋め込まれている。
鈴木芽吹選手の次は、アジア大会。 そして、その先に見えてくるのは、日本人初の26分台。
木南記念の27分20秒11は、その期待を十分に抱かせる走りだった。
男子10000m最終競技結果
- 1位 鈴木芽吹(トヨタ自動車) 27:20.11
- 2位 亀田仁一路(旭化成) 27:40.41
- 3位 西澤侑真(トヨタ紡織) 27:56.13
- 4位 小林歩(SUBARU) 27:59.64
- 5位 藤田大智(中大) 28:04.61
- 6位 羽生拓矢(トヨタ紡織) 28:07.55
- 7位 伊豫田達弥(富士通) 28:22.40
- 8位 梅崎蓮(大塚製薬) 28:25.20
- 9位 吉居大和(トヨタ自動車)28:39.22
- 10位 鈴木勝彦(SUBARU) 28:42.40
- 11位 松永伶(JR東日本) 28:45.30
- 12位 篠原倖太朗(富士通) 28:58.58
